青色信号

雑念

うつろい

相変わらず地元に帰れない。飽き性な私は換気が大事。


部屋の香りについて

THREEユニセックスラインの店員さんと話していて香木の話題になった。パロサントを焚くよりも、アポテーケのお香よりも、銀座香十の高井十右衛門のお香が好き。ウード、パロサント、無花果を合わせたお香は2019年に発売された。天正年間京都生まれ、銀座育ち。老舗の研ぎ澄まされたセンス。ジュエモンはん、きっと今ごろ余裕たっぷりに笑っていることでしょう。


特に3種のアソートが季節の移り変わりに寄り添う組み合わせだ。一途もいいけど本音はちょこっとずつ味見したい。ちゅんとした乙女心を分かってる。アソートの中身は

No.1 沈香白檀、貝香、甘松

No.2 白檀、乳香、ホワイトムスク、セダー

No.3 沈香、パロサント、無花果

乙〜。今の時期は3。季節が深くなってきたら21を楽しむ。色気、余裕、包容力。そう、彼の名はジュエモンはん。




自分の香りについて

3年前に調香師さんに診断してもらった時、甘い香水はさらに重たくなる、卵型に香りが広がるタイプで広範囲には飛ばない体質と言われた。どうりで重いのをつけると酔う訳だ。その道のプロの造詣たるや素晴らしい。

この1年キリッとした香りのブームが続いている。夏頃AYANAさんが取り上げていたこともありジョーマローンのルバーブの香り求めてお店へ行った。結果、かなりのデジャヴ。私のニュートラルな香りはD.S.&DURGAI DON'T KNOW WHAT。これに似ている。ルバーブではないのに。アイドンのほうが炭酸っぽいキレが鋭くミドル以降に深みがあるのでジョーのはイマイチに感じてしまった。パルファムだから表現の幅が違うし仕方ないんだけども。


モノノベさんには性別とか年齢とか無いよね。「モノノベという生き物」と言われたことが2回ある。こんな珍奇なたとえ、頻度として多くないか?恐らく悪い意味でしょう。アイドンどん、フシギ系の香りなのにクセがなくて大好き。珍しい香りとかニッチ向けって体臭キツいっぽくなるし、万人受けのフローラルは素材がパッとしない私がつけるとモブになる。素肌系の香りは甘くなりすぎることが多い。この一見(一嗅?)何なのか不明な酸味を抑えた鋭さと苦みは私の甘い体質が活きる香りなんだな〜。「ナンジャソレ」私にぴったりのネーミングで笑える。ちなみにエルメスルバーブのやつは嗅いだことすらない。お尻が青いので。


夫に香水を選んでとリクエストされ、サンタマリアのフィエノをプレゼントした。彼は腐女子のために生まれたようなクリスタルミントプリンシパルなので重厚なお色気パフュームが似合わない。フィエノの青い芝のフレッシュな感じがばっちり似合う。我ながら良いチョイス。これで私がカケラも腐女子じゃないのだから面白い。育ちの罪。地元を言うとホリエモンの後輩?と聞かれる。面倒だからウンって言うけど本当は違う。商業誌づくりに携わっていた友人に散々誘われているので、扉が開く日も近いのかもしれない。


調香師といえば、ディプティックのKYOTOは薔薇にダウンパフュームのベジマットのような根菜感が加わっていて珍しい香りだった。華やかな薔薇なのに端っこに折り目がある感じ。座っている。雅。多分顔には似合うけどキャラに似合わないやつ。断念。ベジマットもお洒落な香りなんだけどこちらはフェミニンさが無さすぎて私の顔にマッチしないんだなー。むずい。


つべこべいいつつ結局香十。そういうオンナです。ジュエモンはん、香水も大変素敵に作っております。もちろんウッディな香りが大得意なんだけど、沈丁花の香りがマァ本当に可憐を突き詰めたような香りで。海外のフレグランスメーカーにはない繊細さと軽さ。動作が大きくない感じ。万人受けのフローラルは好まないけどこれだけは大好き。勝手な想像だけど、和の花の香りの再現って難しいのではないかと思う。後輩のアイナいわく金木犀を模した香りが流行っているらしいけど、嗅ぐと大体金木犀っぽいことはなく、オレンジ系の挫折した香りになっている。とのこと。言わんとしていることは分かる。ジュエモンの花は沈丁花のフレッシュさを上手く表現していると思う。季節外れなんだけど私の体質的に通年いける香り。トワレなので夕方付け直すと気分がクリアになって良い。好きそうな友達が思い当たるから誕生日プレゼントはジュエモンの香水にしようかな。


香りの持ちは置いといてお手頃系でいえばOSAJIの水仙の香りも共通概念としての青さをちゃんと出していて好き。祖母の家の庭に咲いていた水仙を思い出す。かの有名な?NARUTO水仙エピソードも好き。花の鮮度を通して関係性を察するという描写の仕方がたまらなく良い。

耳なしメアリー

私は人に相談ごとをしないな、とふと気づく。変態だからかな。最近友達の悩みを聞くのに疲れてしまいがち。


最近の仕事について。今までと対象者が違う依頼があった。ド緊張していたけどうまく行った。良い経験になったなぁと呟く。しかし私は経験という言葉が苦手。自分の言葉選びにモヤモヤしながら道を歩いた。何かした気になって感覚が鈍ると溺れる。鮮度って大切。今思えば不自由なときが一番辛かったな。煮詰まる感覚がする。


研修の帰り、変な時間にお昼ご飯を済ませたのでマンマーノでこくわのデニッシュを食べた。こくわ、今、旬。キウイの親類みたいな見た目も可愛い。

こぐまについて。阿蘇カドリー・ドミニオンには行ったことがない。パン君への調教は虐待らしい。命が息づく唯一の星なのに。モンスターファーム好きだったなぁ。モッチーが好き。スエゾーも好き。ガリも好き。あとモノリスね。

春に誕生したツキノワグマの赤ちゃんが可愛くて良く動画を見ている。この子は口元の曲線と白い毛の具合で口角がキュッと上がっているように見える。ラブリーなお顔立ち。

ぱんだにも赤ちゃんが産まれた。なぜかぱんだの新生児が大好きだ。あのぷよんとした見た目とけたたましい鳴き声のUMA感が可愛い。宇宙を感じる。


お化粧でアイメイクにハイライトカラーを使わないのがトレンドみたい。新生カネボウを見てふむー!となった。おそい。早速手持ちのルナソルのオレンジで実行。顔にアンニュイさが無いからなのか?謎に似合わなくて、化粧下手な中高生みたいになる。季節外れな深刻さが出る。完全に秋の顔だ。わたしは目と眉が近い。二重幅が狭くタレ目なのに反して目力が強いと言われるし、特段睫毛が長いわけではないのに長いと言われる。ただの錯視です。横から見た時、眼球の丸みが出っ張っているか、少し奥にあるかはメイクをする上で結構大事だなと気づいた。私はクドくなりやすい。学び。

目頭を白っぽくしてキャットラインを引くほうが合う。プレイフルな色も流行っているみたいだけど、新規購入は全く無い。セルヴォークのイエローとグレー、クレドのクアドリから緑や青を拾って使ってそれで満足している。かんけーないけどスキントーンのカラーはクアドリの309に限る。世間的にオレンジでやったほうがワカッタさんなのだろうけど、もう3年くらい春夏秋冬テラコッタさんでお腹いっぱい。目元やチークをフレッシュな色にしたときはセルヴォークのグロス01番を使っている。屍色を使ってしっかりコントラストを出す。



日々の武装について。


似たような靴を2つ買った。


フラットシューズ@CELFORD

黒のメッシュにトゥがベージュの切り替え。

履き口のVカットの形が可愛い。私のセンスだと真夏に黒ずくめは難易度が高すぎるのでやらないようにしている。とは言ってもやっぱり黒って便利。こちらの靴はチュール素材で透けているから丁度よい。靴ずれもしない。通気が良いから心地良い。てきとーに買った割にとても気に入ってしまい、もっと大事に履けばよかったと後悔もしている。セルフォード、たまに可愛い靴出すよね。


サンダル@ペリーコサニー

黒のメッシュのサンダル。買い物中、コードのサンダルを色々と試してみるも撃沈。私の足の短さでは服の生地やアクセの重み感とのバランスが取りづらかった。縁取りが綺麗な筒状になっていて、薄い肌でも靴擦れしない。


ミニショルダー@CHRISTIAN VILLA

その日人類は思い出した。ピンクゴールドの存在を。

私の当たらない勘では復権の予感。カジュアルすぎるᎢシャツとか何かと露出の多いキャミやブラトップの時にピンクゴールドの小物を投入する。ゴールドやシルバーより上品に仕上がる。

春先に、アクセとしてちみっとしたバッグ付けるの可愛いよなービーズのポシェット可愛いよなーと思っていたけど似合わなかった。

CITYSHOPで一度見かけて欲を押し込めて、新丸ビルをうろうろしてたらスピックアンドスパン?フレームワーク?そのへんで見かけて堕ちた。肩に掛けてみたらポップで可愛かった。ピアスを華奢なのにするとヲタ感出るからエルメスのシッカリしたやつを投入する。もしくは大きめフープ。エルメス、売るの勿体ぶってたら使えるようになった。


サブバッグ@brigittetanaka

エコバッグに興味無い人間なもんでスルーしてんだけど、結局思い出して買っちゃった。話題になってから1年くらい?おそい自覚はある。ワイン用のやつとチーズのやつ。送料キャンペーンをやっていて公式から買った。


ピアスホールを増やした。

ファーストピアスは夜寝る時シクシクするほど痛かったのに、今回は痛くなくてびっくり。年齢のせい??レインブーツの靴ずれのほうがうんと痛いんですけど。


ピアス@les bonbon

MARIA BLACKの提案しているお耳が可愛い。ミニマルなメレダイヤのピアスを軟骨とか色んな穴に飾る方法。

カモメの形もブドウの形もドイツ留の揺れるモチーフも幾何学模様のやつもむちゃくちゃ可愛い。このサイズのダイヤは立て爪にしないほうがつるんとしてサイズ感と合う。一粒ならすぐ見つかるんだけど、プチプチとした複数のダイヤでドイツ留のピアスってなかなか無い。結局MARIAさまは毎回可愛くてにくい。エストネーションには各種一点ずつしか置いてないらしく衝動買いしかけた。我慢した。ほんとえらかったと思う。

早速似たようなものが無いかリサーチ。les bonbonで見つかった。つけっぱネックレスはここのチェーンにしてるんだけど、メレダイヤのアクセを限定で出していたらしい。知らなかった。ドイツ留でツインモチーフ。下の方だけチロチロ揺れる。存在感がほぼ無く、質感だけ足すような感じ。重ね付け前提なので充分可愛い。ひとクセ欲しいときは家のhirotakaと組み合わせることにした。西洋風を吹かせたい時はetebijouのミニマルなシリーズから幾何学モチーフを買い足そうと思っている。あー満足。


イヤカフ@SYKIA

ぷちぷちしてる。かわいこちゃんが付けたらパンクにも見えそうだけど、私がつけると全くハードに見えない。耳薄い人間でもしっかりホールドしてくれる。昔遊んだ公園の遊具みたいで可愛い。飽きたらユマ行きがほぼ確定している。


PALAの新作が可愛すぎて辛い。

全部欲しい。


スキントーンのネイル@uka

ナチュラルすぎて持ちが悪そうとか勝手な想像をしていた。本当に反省している。こんなに良いんですねぇ。ハンサムな爪にしたい気分でベースコートシリーズの5/0を購入。ぱっと見はありがちなくすみベージュのようだけど、ベタ塗りのコンサバネイルとは別物。赤みのなさと透け感がハンサムかつエフォートレス。「肌の色」というより、「皮膚の色」って感じ。装飾用の義手のようなエロスがある。休みの日はときどきネイビーを細フレンチにしている。屍リップといい、引き続き無機質な色がブーム。


ネイルのパーツ@楽天

小さい石とマットなブリオンと黒のフレークを買った。黒のフレークはシャーベットカラーに混ぜてTHREEの昔の限定のやつ(絶対伝わらない)みたいにしている。ネオンカラーのブリオンはビーズのアクセをつける日にちらしている。


ナイトドレス@I Feel Love

シルクのナイトドレス。パープルとイエローのカラーにした。高貴。部屋のインテリアも葡萄色と芥子色。この組み合わせが好きなんだろうね。雅だものー。可愛すぎる。


ニット@CFCL

着てみたら良すぎた。それしか言えない。



他はisseyのスキンウェアとレジーナピョウのミニスカートばかりはいている。あとシーバイクロエのミニワンピ。フィリップリムのサンダル。フィリップリムのサンダルかわいーんだよ。MARNIよか好き。


清色まじハマり人間だから今のトレンドができるだけ続いて欲しいと思う。切実に。ダスティカラーのこの3年くらいホント辛かった。


まだ半年も先なのに誕生日に欲しいものについて考えている。革の鞄がいいなぁ。。

リニュー

佐藤可士和展に滑り込んだ。デザインから希望の残り香がした。昔は工事中のビルを覆う広告を見てワクワクできたんだよな。経済成長を信じられたからできた所業。Z世代のユマが90年代初頭の作品たちを見て感心していた。「エッSMAPのグッズ!かわ!イイ!」ここのところちいかわにしか見えない。私より大きいのに。「陶子ちゃんの世代に生まれたかったなぁー。今よりドラマ凄かったんでしょ?花男とか!」花男について質問されているのに再放送で見たANTIQUE-西洋骨董洋菓子店-を思い出し、Mr.椎名への愛をぶちまけそうになる。展示されていたミスチルのアートワークのせいだ。あのようにカラーの違うメンズが彩るドラマが見たいモンです。ナニキュンとかテンション、閾値の高低じゃなくて奥行きのある快。椎名桔平さん、阿部寛さん、藤木直人さん、タッキー。ヒロインに小雪さん。バランス。バランス……

人間の記憶は時系列ごとに整頓されている訳ではなく、その経路にアクセスした回数によって強化される。私は末っ子で兄と一緒にテレビを見ていたからか、再放送ドラマのほうが思い入れがある。初見は兄に付き合って「?」のカタチで摂取して、再放送によって「!」へ至ったもののほうが定着が深い。日記も出来事からしばらく空けて書くようにしている。星座は見えるひかりの強弱があるから成り立っている。想起のレベルに見合わなかった経路はそれまでだ。小さなキャパの中で不要な物にスポットライトを当てない。自然の生産物。感覚的な場にしたい。ちなみにユマは小雪さんを知らないらしい。時の流れ。展示には申し訳ないがこの日最大の衝撃だった。その晩夫に「清潔で知的で近寄りがたい感じを演出できる20代の女優さんが欲しい。小雪さんみたいな、色気を消した役だったとしても魅力的な」と話した。理想化である。

ミュージアムショップの本コーナーにてたまたま手土産の本を手に取ると、ダーニのガトーバスク(良いチェリー)が紹介されていてビクッとなった。絶対SNSに載せなかった私のとっておき。数ページめくるとLESSのいちごタルト(甘くないウマい)も紹介されていた。内容がツボ過ぎて購入するか迷った。そういえば私の地元にも白金がある。東京にもあったんだ。フクヤマの誤った使用法。どちらもしーんとしていて好きだ。



最近のお気に入りの飾り付けについて。春の味がしますね。


〈ハンドパールピアス@Burberry

陶。藍色好きさ。


〈セットアップ@08surcus

グレーのノースリハイネック・スカート。キュプラは天敵だけど可愛さに勝てなかった。素材の光沢とオチ感が女優。店員さん優しくて好き。


〈腕時計@アルネヤコブセン

内勤用。ミニマリストにウーンというか、日本の若年層の早老化が物悲しくて苦手なんだけど、このデザインはアクセントにもなれば無にもなってくれてつまりは機能美なんですよね。でも未だに今を生きろの窪塚の話で盛り上がる私と友人たちなんだから私らのほうが余程今を生きてないよねって。しかも再放送勢だし。思い出をなぞり書きすることが増えている。おとなぁ。


〈リュック@camper

実家から送ってもらった。目の詰まったラフィア素材のキャメルのリュック。馬鹿でかい専門書を持ち歩く時、スポーティなリュック背負うと芋い。何を隠そう私は犬の鼻息みたいな顔をしている。体育会感よりピクニック感を出していく戦法。camperのサンダル、歩きやすいから良いデザインはファンが瞬殺しちゃう。流行らない。アウトリーチできない。去年ニット素材のオルガ買い逃して今年も出るかなーと思ったら出なかった。


〈シャポーハット@agnès b.

beautifulpeopleAWでダブルエンドのセーラー帽が可愛い!と思っていた。これは一見シンプルな令嬢ハットなんだけど、つばを折り返すとセーラー帽になる。アニエスWeb媒体ではこのアレンジ方法は紹介されてなくて、伊勢丹POPUPに遭遇しなかったら絶対ノーマークだった。シルエットの個体差が激しかったけど似合う物を選べパピネスイズヒア。コットンのブラウスやショートパンツに合わせる。


〈ショートパンツ@b&y

セールで3000円ちょっと。去年の春にレザーのショーパンを購入して便利だったからチェックしてた。私は低身長で腰が細いから(悪い意味で。お腹は細くない。)ARROWSのボトムは体型に合うものが多い。大げさなコットンのブラウスと合わせるためにストレートなシルエットのものを。なんせシャツが似合わない顔。


〈ショートパンツ・ウインドブレーカー@danskin

アディダスステラを愛していた。しかし、こっちに来てから導線上店舗で見る機会がなく遠のいていた。ゴールドウィンで選ぶならノースフェイスじゃなくてダンスキンです。エレッセ似合わない。背が160cm代だったら色々違ったのだろうか。emmiちゃんがセレクト、コラボを経て酷似した色合いのオリジナルウェア作り出し、それがイメージとして浸透しちゃったため、ダスティカラーの雰囲気見慣れて飽きてきちった……GNUと思ったけど実物見ると、機能性がね。良いねー。レキサミとかボーダーズとかのコラボ系は置いといて、ファンに瞬殺されるものとそうじゃないものの目利きが未だにできない。店舗によって置くラインが異なるのもまた困惑させる。んでもって時々アウトレットに良いやつがこぼれ落ちてる。真夏用に青のショーパンを買った。自転車お出かけ用。貼り付かないシャリ素材。快適。SSのやつは薄っすいウインドブレーカーを買った。こういう定番の良いやつは無論ファンが瞬殺してる。去年一昨年は私の顔色が曇る感じのグレーだったけど今年のは色が良い感じ。ジャスミンホワイトにした。UVカット。雨に強い。レインコートって蒸し暑いから苦手。梅雨でも暑くならないほうが素敵。店員さんには相変わらず、「お客様はこちらのほうがお似合いになると思いますぅ」ってフリル付きのものを勧められた。どこに行ってもピンクとフリフリをすすめられる。店員さんに悪意は無いし慣れてるんだけどちょっと萎える。


〈スカート@See by Chloe

大学の時流行りすぎて一時期敬遠してた。ごめんなさい。一見テニスのスコートみたいなスカート。こんなのNiziUみたいなピチパチガールズしか着れないんじゃ〜?って思ったけど試着すると広がり方が絶妙でロリっぽくない。スポーティさも程よくて驚いた。それは私の顔のせいか。動いた時のスリットが結構な色っぽさでビックリするんですよ。そこが良い。健康な色気。金具のカチャカチャ感が強すぎると私の顔と身長から浮くのでシーバイのカバン類は好みに刺さってないんだけど、SSのイチゴのカードケースとお花とフルーツモチーフのスタッズが付いたイブニングバッグは刺さった。欲しい。これなら似合うなぁ。大学生の時ANNA SUIもミュベールも買ってこなかったのに。不思議とときめき。


〈カーデ・ワンピ@JAMAIS VUのコットンカーデとワンピ〉

カーディガン・アニエスベーより・ジャメヴじゃん。モノノベ心の575。


〈スカート@ELIN

ELINのスカートは横から味わうもの。異論は認める。特に新作ではないけどウエスト細く見えて最近愛で愛でしがち。


金平糖ピアス@mame

去年つけなかったのに今年愛が再燃してる。大豆田効果かな?ガラスのぽってり感が気分です。


〈ワンピ@ニアーニッポン〉

一昨年くらいのやつ。真っピンクですべすべのコットン。家でチルする時最高の気分になる。胸元のおリボンが可愛い。


コテン

ホテルニューグランドのフェニックスルームが営業しているとの噂を聞きつけ、すかさずユマと向かった。朝の横浜は好きだ。

ユマは就職で悩んでいるらしい。covid-19で予定していた留学が叶わず何の強みも無いと嘆いていた。不景気により希望の業種が難しくなり、国内大手への就職を考えているようだ。「最初からソコ目指してきた子たちにどうやって敵うのかなぁー」ごめん陶子ちゃんはワカラン。私は専門職だからアドバイスできることが無い。嫌だと思ったら即辞める為に手に職をつけた。それすら縮めて事業をやっているんだから社会人というよりただの変人だ。新卒一律採用の世界かー。転職が当たり前で生きてきた身としては知らない国の話みたいだ。普通に生きるって辛い世界に思える。普通をやらなくて済むのは、自分の美学を押し通すことができるのは、私の努力だとは思わない。素晴らしい社会貢献だと拍手され自分らしい生き方が出来ていて凄いねと言われるけど土台ありきだ。そう。逆逆ゥ。与えられたことに感謝しているから困っている人のための事業をしているだけ。行動して形にした部分だけはちょびっと偉いけど。不平等という平等が与えられナントヤラだし、美人税とか嫌味な言葉って存在するし課題は個人毎に違って当然だ。それぞれが得意なことをやる。それがチーム医療だ。はい話が逸れた。自分の悩んだ経験が無いことへの答え方って難しい。自分がラッキーだったことを理由に誰かに悲しみを所有させちゃいけないと思う。結局アラサー、しかも学生時代ユマより偏差値低かったやつからの言葉なんてただのウザいお説教になるから身の程をわきまえないといけない。距離感を取るのが下手くそなことを自覚しないと。ということで何とも答えられなかった。ユマの長所を沢山褒めた。これで良かったのだろうか。

ESTNATIONのショーウインドウの前で気になっていた鞄が飾られているのを見て足が止まった。「陶子ちゃん、どしたの?」ユマが不思議そうな顔をしていた。「うわこれやっぱ良い、ハマのESTNATIONはまた違った趣きですな」オタクが喋る。「えすとねーしょんてなに?」衝撃が走る。「ん、バーニーズは分かる?」「分かんない」衝撃アゲイン。「TOMORROWLANDは?えーと、ユマBEAMS好きでしょ」「あ!TOMORROWLANDはママがお買い物しているよ。BEAMSは派手だから大好き。でも他のは知らない。大人のお洋服ってどこにあるの?」私の地元はコンパクトに整っているので親に教わらなくとも高校生にもなればお姉さんたち愛用の大きなセレショは覚えてしまう。駅んとこにえすとねーしょんとTOMORROWLAND。その裏の公園沿いにバーニーズのビル、そこからストリート色強めタウン方面に4分程でロンハーマン。お城や海の方面に向かって女学園を通り過ぎるとBIOTOPがある。純度の高いものが無駄なくきちんと並べられている。東京に住んでいると欲しくないものが視界を遮るから、見たいものが見えなくて困る。しかし、私が地元を離れている間に都市計画がガンガン進んでいる。航空関係の法令がOKとなって高層ビルを建てられるようになったらしい。信じられない。帰郷する頃には、私の愛した小さな都は別の姿になっているのか。セレショとその価格帯と毛色の説明をすると「え!今度一緒に行きたい!jwの帽子と鞄が見たいんだけど、どこに行ったら実物見れるのかなって思ってた。私ってイマイチ東京の大学生って感じじゃないもん。ネイティブなのにさー。お洒落になりたい!」と言っていた。私が21とかそれくらいの頃ってセクシーという派閥の幻影を、まだ、ギリギリ、薄っすら、追っていたような気がする。小学生の頃に見たKinKi Kidsをカバーしてる小クラの赤西くんとかPEACHJHONのCMの藤井リナちゃんみたいな小悪魔な色気が欲しくて、いかにしてお姉さんっぽくなるかとエッチなことしか考えて無かったんだけど。イトコのお嬢たちは本当に子犬みたいにホワホワしている。ちいかわっぽい。まず日焼け止めちゃんと塗ろうぜや。

予定より早めに着いてホテルの中を細部まで観賞する。至るところに装飾が施されており、タイルや漆喰彫りの壁や照明器具、絨毯などをまじまじと見つめる。大階段の先の時計を囲う天女の絵がとても好きだ。重厚な木の扉が開くとフェニックスルームの美しさに思わず「わぁ」と歓声が漏れる。桃山様式の絢爛豪華な造りが私達を非日常に誘った。天井の化粧梁と大きな柱が寺院のように荘厳な空間を創り出している。そこに透かし彫りの灯籠風シャンデリアが繊細な華やぎを添える。窓のカーテンの上飾りは花頭形の優雅な曲線であり、床には川島セルコン(大好物)の豪華な絨毯がふかっと敷き詰められている。窓際の席に案内され、年代物のガラス越しに柔らかい光を浴びながらアメリケーヌソースで仕込まれた濃厚なシーフードドリア、フルーツの取り揃えが端正なプリンアラモードをいただいた。食器にもフェニックスの模様が描かれていて、美意識のぬかりなさに痺れる。北欧に飽きた方々の間でふつふつとシノワを取り入れたインテリアが人気になってきているようだ。1人相撲に寂しさを感じていたくせに、同じ土俵に上がられると勝手に入ってくるなとばかりに「私昔からアジアをミックスしたほうが美しいって言ってたじゃん!もぉぉ!」と機嫌を損ねている。みんなアリタポーセリンラボのJAPANを買ってください。絶世のモダニズムジアンビューティ。おプラチナだからレンジもOK。伊勢丹新宿本店と新宿高島屋くらいしか置いてない気がする。あと林九郎のコトホグシリーズもポップさがあって可愛いから。みんなの献金により新作がもっと沢山出てくれることを祈ります。古伊万里しか勝たん。モノノベより。

お洋服はカチューシャにミニワンピ、小物はバーキンにローファーにした。ユマも珍しく襟付きのワンピースにクラッチバッグだった。ユマの足元もローファーで、高校生から履いているというHARUTAの色褪せが美しかった。大人になってからそうするには気が遠くなる機会が必要だ。実際に横浜で見かける人々はイメージと乖離していて、黒基調でスポーティな格好の人が多い。ハイテクスニーカーばかり。公園で遊ぶからなのか。ナンナン。

i

生まれ持った環境とか、フェミニンな容姿とか、選択的で無いものでジャッジされたくなくて、ユニークな服に袖を通してバランスを整える。人の真正面から目を合わせて、できるだけ考えて言葉を選ぶ。そんな毎日だった。最終出勤を目前に突発性難聴になりかけた。耳の奥がジワジワして、すかさず薬を飲んだ。私は持たざる人に出会ったとき心の奥底に沈んでいるブニャブニャの罪悪感が破ける。その中の真っ赤な液体がすぅーと広がる。自分の選択は如何なるものか。罪悪感の皮が破けないように無理をしているのではないか。そんな気持ちになることがある。耐えられなくなり、電車の中で西加奈子さんのアイを読んだ。主人公は金銭的に裕福であり両親からの理解に恵まれている女の子。それでいて賢い。しかしアイは自分のことを不幸に感じてしまう。すごくよく分かる。自分に対して主体的であるかということが当事者意識の正体だと思うんだけど、生きていると選択的なことと選択的でないこととの二種類がある。そして選択的でない部分に対して納得をしていくのは難しい。賢い子ほど納得を探してしまう。アイのルーツはシリアであり、養子だ。私はアイほど劇的な背景を持って生まれてはいない。しかし持っている/持たざるに関する具合の悪い感情は共感せざるを得ない。引け目というヤツだ。


やっと最後の会議が終わる。そう思った矢先にもう1つのプロジェクトについての話し合いを始めると言われた。そんな資料あったっけ?やらかした!そう思って冷や汗を書いていたらオモムロにこれに目を通してね、と分厚い紙を渡された。同僚からの寄せ書きだった。「モノノベさんは、一言でいうと艶やかって感じだからこれにしたの!」上司から真っ赤なラナンキュラスと野草とラフにまとめた素敵な花束をいただいた。浅野温子似の都会的で格好良い女性だ。話した覚えは無いけれど、偶然にも私の世界一好きな花。薔薇よりフンワリした花弁。様々な種類がある。私は変わり咲きの葉牡丹のような形状になるやつが特に大好物。少ししか接点の無かった人たちからも桜の紅茶やハンカチ、今後に役立ちそうな貴重な文献をいただいた。あなたがいてくれて良かったとみんなで労ってくれた。関東に来てから人の親切心を信じられなくなっていた私だったけれど、やっと人間に還った気がする。一生懸命やって良かったと心から安堵した。自分ひとりでは絶対に得ることができない幸福だ。それに浸りつつ心の中の20%くらいは結局人に慰められているな、と思った。慰められながらまた、それが受けられなかった人たちのことを考えてしまう。東京には絶望が渦巻いている。フーと深呼吸してアイをなぞる。私が私であるからこそ、皆は私を愛す。見返りが欲しくて行った行為によって報われている訳ではない。他人の壁にスカッシュすることでしかiを受け取れない訳ではない。絶対に自分の存在が先行しているのだ。アイを読むと自分の感覚を、美しさを、少しだけ信じられる。気づくと赤い塊は萎んでいた。耳の奥のジワジワが治まった。アイを与えるのが苦手だから受け取るのにも苦労する。消えものなんかじゃないし、犠牲なんかじゃないし、焦ることなんて何一つないのに。安心していいんだよ、自分にそう言い聞かせる。

ジダイ

神楽坂の老舗の甘味処でアイスグリーンティを飲む。同僚の20代の女の子は新卒。このあたりの大学だったらしい。モノノベさんが好きな餃子と抹茶で退職を祝います!と連れてきてくれた。私も大好きな街だっのでひときわ嬉しかった。東京のちいさなフランス。今ちょうど山内マリコさん原作の映画が公開されているのを思い出した。彼女がこのあたりのカフェレストランの話を何かの記事でしていたからだ。甘味処の隣の席には男子大学生が6人いた。あからさまにこちらに視線が飛んできてうおおとなる。学校みたいだ。このへんで学生したら楽しそうだなぁ、と思い同僚に聞いてみるも、私の4年間は好きな人とかできなかった。社会人になったら彼氏が出来ると思っていた。チャラチャラした人は嫌だし自分と対等な学歴が良い(早慶かそれ以上)とのこと。しかしcovid-19のため入社式が無くその打算は終えたらしい。対ヒトとのことって事前学習はできないもんなぁ。ふと映画化された小説がよぎる。大切に育てられてきただろう横浜のお嬢さん、世の中には色んな世界があるんだよ。無理したり頑張らなくていいから自分と手を繋いでいてね。そう祈る。


最近の新人たちのメモ。

財布のゆるさに元気のなさが現れている。


ピンキーリング@hirotaka

ダイヤとブラックダイヤがハーフになったデザイン。料理の仕上げにかける胡椒みたい。糸みたいに華奢な地金に黒いダイヤがピリリ。ファランジにもしたいから2号にした。息の短そうなものに中途半端にお金をつぎ込むならこちらのほうが良い。


〈ガーネットのオーダーリング@komi

人に何て言われようとこれは無駄使いじゃありません。シグネットリングにちっこいハートのガーネットを2粒とブラックダイヤを埋めてもらった。キメキメよりおちゃらけた格好のほうが元気が出ることってある。あるある。


〈ハット@Ecua-Andino

去年代官山をふらふらしていて買ったまっ白のチューリップハットが気に入っていた。装飾が無くクリーンなニュアンスを纏える。今年はニナリッチのビジュアルのお嬢さんのようにつばが下がったレディなのものを購入。赤い帽子のクッキー缶の女の子のような雰囲気もある。ブラウンにした。ロマンティックなワンピース類に合わせても良いし、ショーパンに合わせても程よくカチッとしてストリート色を強めないで済む。バケハは顔に似合わない。多少おすまししていたほうがマシに見えるタイプ。


〈キャミワンピ@baum und pfergarten

これはレミニセンス……と呟いたフォト柄。マーブルとタイダイ柄は去年やり尽くしたからもう売る。光沢とハリ感があってクシュッとした素材。新聞をラミネートしたみたいで可愛い。baumは毎回色んな生地感のものを出してくるので好き。キャミワンピって流行り廃りありそう。しかも終わりそう。そんな気がするのだけど生地の質感の魅力に逆らえなかった。


〈アンティーク時計@Hermes

時計に興味がない。そもそも時間を確認することが嫌い。高校生の時に海外ドラマを見て一目惚れして買ったハミルトンのもの1本しか持っていない。4月から仕事で腕時計が必要になると夫に相談したところ、「俺が腕時計を愛でるのは男性がオフィスワークで身につけられる数少ないアクセサリーだからね。女性ものは全然分からないけど、やっぱりCartierのタンクは素敵だと思うよ。男性用のタンクも凄くドレッシーで優美で、欲しい時期があったんだよ」「でも、陶子さんってそこまでのもの必要なの?ガチガチにスーツを着るとは思えないし、女性ならNOMOSUNIQLO化したやつとかで良いんじゃない?(恐らくダニエルウェリントンのこと)」とのコメント。んああ。確かにィ。「あ、俺、大学生のとき買った使ってないNOMOSがあるよ!あげようか?うーん、でも陶子さんは小柄だからフェースが大きいの似合わないかもね」のおお。確かにィ。今売っているブランド時計はレディースでも映え重視なのかフェースが大きい。気がする。探すならアンティークか。ということで銀座。元々時計(というか時間を気にすること)嫌いだし、好きじゃない付け方をしている人が多いせいで、RolexΩに抵抗感が強い。GUCCICHANELは鞄が似合わないから却下。Tiffanyは潔いシンプルさで良かったけど、個人的に付ける人を選ぶなと感じた。ヴァンクリや本命だったIWCロンジンも数が少ないためこれというものに出会えず。Cartierはそれ単体で見たらグッと来るものが沢山あった。細部まで作り込まれた造形や色合い、光沢の扱い方がジュエリーのようで関心した。夫の「ドレッシー、優美」という言語表現が蘇る。明らかに他とは違うアクセサリーとしての技巧の用い方。「Cartierの時計は金字塔」というブランド力を得ることに大いに納得できた。そして相変わらず夫の言葉は信頼できると思った。信頼ってただのファン心で信仰なんだと実感する。私は夫のセンス、すなわち感覚神経のファンなのだ。美しい反面、Cartierの時計はかなり服を選ぶ。バーキンと一緒だ。魅力の強すぎるモノはそれが主役になってしまう。スーツというのは「型」があり枠組み以上の造形にはならないから美しい時計が映えるのだ。バーキンが「合わせやすい名品」なのも、他がシンプルな「型」であれば鞄の魅力が映えるからだ。決して「色んな服に合わせやすいから名品」なのでは無い。バーキンだって「型」から外すコーデはバランスの取り方がかなり難しいと思う。あーこれ表で言ったら叩かれそ。25anscちゃんとか見てたらパワーと経験がいるって思うじゃん。そうして結果、Cartier程ジュエリー色の強くないシンプルなHermesに落ち着く。もっと構えていたけれどお手頃でびっくりした。これだけバーキンに言及するだけあってクリッパーやウォッチではない。無識者の私は知らないモデル。フェースが四角いフォルムで、文字盤のフォントが気取っていなくて良い。デザインのアンティーク感が強くないのでモダンな格好にも合う。

春を感じる

高校生のとき、科目によって席順が違った。50音順。その並びは1番嬉しかった。理由はふたつあって、ひとつは後ろのほうで先生の目を盗んでのんびりできること。もうひとつは、私の後ろにヤナギくんがいること。ヤナギくんは授業中よく寝ていて、突っ伏した頭から伸びる黒髪が私の制服を刺した。痩せ型で切れ目でそんなにお喋りじゃない。パッと見冷たそうなのにクラスの皆からとても愛されていた。

学校生活の他の場面では特段つるんでいなかった。50音のときだけ、お互いなんとなく早く席についてお喋りをした。

「母さんがさぁ、フラワーアレンジメントの教室に通いだしたんだよね。家中薔薇だらけなの。それがカラカラになって、色褪せて、ドライフラワーちゅーの?俺は美しく思えない。吊るされた男みたいに見える」

「ねェ、俺速報。こっそりバイトはじめた。音響のアシスタント。いいでしょ。モノノベさんもこっそり音楽のバイトやってるって聞ィーた。マジ?」

「俺さ、この間話してた看護師のモモちゃんに振られた。ありえん。もー女の子不信。1回味見させてもらったから、まぁ、良い思い出ってことにするけど」

違った。全然。ヤナギくんは人の間合いにスッと入って、話を聞くのが上手い。謎の包容力がある。だからいつもみんなの中心にいる。 そう思っていたのに。50音のヤナギくんは、1人称が多い。

「お願いだからノート貸してー。その代わりに、俺の必殺技を見せてやろう」次の日、私の手に戻ってきたノートには走る馬の絵が描いてあった。筋肉質な馬の体に艷やかな毛が波打っていた。後ろ足で大きく地面を蹴り上げる、ヤナギくんのペラッとした雰囲気とかけ離れた逞しい馬。後で知ったことだけど、お祖父さんは元々画家で美大で教鞭を取っているらしい。私はその日、おそらく初めてヤナギくんに対して言葉をかけた。いつものペラッとしているお喋りじゃない、彼自身についてのこと。「ヤナギくんの鋭い感覚、いつも良いなって思う。心地良い」それを聞いたヤナギくんはニッと笑った。みんなに向ける笑顔とあまり変わらない気がしてムッとした。


2月のある日、午後から天気が荒れて雨が降ってきた。50音の席に着くと後ろから声がした。「今日、傘忘れちゃった。帰りバイト先まで送ってって」バイトのことはみんなに大っぴらにできないから仕方ないよな、それだけの感情で引き受けたつもりだった。しかし、授業が終わると妙に緊張が湧いてきた。昇降口で一緒になって、目を合わせずに横並びで靴を履いた。傘を持って玄関を出ようとした瞬間、ピタリと雨が止んだ。明るくなっていく空を見て「止んだね」と呟いて、私たちは別々に帰った。

次の週の金曜日、また雨が降った。空は濃い灰色で土砂降りだった。50音の席に着くと、いつものように後ろから声がした。「春だねェ」この天気のどこが春なのか。理由を聞くよりも先にヤナギくんは言った。

「俺さ、モノノベさんのうなじを見ると、春を感じる」

思ってもないところを舐められたみたいだった。何かの本で、ひとつ先の季節を意識して体温調整をしたほうが自律神経に良いと読んだ。思春期の私は色んなバランスを崩しがちだった。楽になりたい。その一心で9月になれば髪を伸ばし、2月になれば短くした。私にとっては、ただそれだけだったのに。なんだか急に相手が性的にみえてきてしまった。見つめられる首筋がヒンヤリして、顔はかぁっと熱くて、悟られないように必死で平静を装った。ドライブに連れて行ってくれる年上の彼氏もいたし、決して経験が少ないほうではなかった。なんならヤナギくんより遊んでいた筈だ。なのに、どうして良いか分からない嬉しい感覚にさせられた。

週末、彼氏に会う約束を破った。月曜日、思い出さないように気をつけながら登校した。それなのに、50音になっても私の後ろには誰も居なかった。理由はクラスの誰も知らなかった。もう少しくらい優しくして欲しかった。


最近、髪をバッサリと切った。次々にどうしたの?と聞かれる。秋頃に知り合った人からすると退職を決めてヤケになっているように見えるのかもしれない。「春だから」だ。髪を切るのは。だけど、「春だから」とは言いたくなくて、誰にも言いたくなくて、薄ら笑いで「冬毛を刈ってきました」と言った。「あはは、モノノベさんらしいね、ウケる」と言われた。それで良い。


髪を切った日、帰宅するなり夫が「陶子さんはやっぱりショートが似合うね」と言って抱きしめてくれた。私の扱いが上手だ。しかし、この時期になると短くするという法則にはまだ気付いていないみたいだ。私にとっての春は、暖かいぽかぽかとした日差しではない。首筋がヒンヤリすることに「春を感じる」。まだ当分は私の春はヤナギくんのものだ。