青色信号

雑念

スマイル

「なんとなぁく分かってきたと思うけど、この仕事って誰にでも出来るものじゃないのよ。モノノベさんにはずっと居て欲しいんだけどなぁ、私から推薦して昇進とかもお願いできるんだけど」新職場の上司は昔むかし保育士をしていたそうで、何かにつけて「よく出来たねぇ~~っ」と褒めてくれる。のぼせそうになるのできっと今だけだと言い聞かせている。彼女は目が合うといつもニッと笑う。私を好ましく思っての笑顔なのか、自分の思い通りに物事を運ぶ手段としての笑顔なのか。

ヒトは生まれながらに社会的生き物だ。新生児微笑というものがある。新生児の頃、親に育児放棄をさせないために笑顔を振りまく期間が存在する。笑顔は己の生存のための機能として備わっている。情けは人のためならず。


やっぱり私は『神経の細い子』だ。いくら分析して俯瞰で見ようと思っても、この世の全てのスマイルがただの快刺激としての笑顔であって欲しいと願う。どこかで期待している。幼稚だ。チャーンもバァブゥーも言えないレベル。イクラちゃん以下。陶子じゃなくて筋子。今旬の。『神経の細い筋子』なんか強そう。『涼宮ハルヒの憂鬱』カラオケの履歴にありそう。『とある魔術の禁書目録』誰かの黒歴史作ってそう。(全く内容知らんけど)

というかわざわざ分析すること自体が『細い』のだろう。ヒトはオバサンやオジサンになると図太くなるらしいから、まだ青いってことなんだろう。オバサンを即座に通り越してサクッと『おばぁちゃん』になれるよう日々努力をしたいところ。


昼休みにコートが入荷したので、と電話があった。銀座三越のENFOLDへ寄った。今年のノーカラー コートはでっかいボタンが付いていて、遊び心のある仕上がり。カジュアルすぎて私の顔には似合わなかった。私が着るとnagonどころかZUCCAに見える。ZUCCAは元からシュッとしている顔とオーラの人が着るもの。ずっとセレショにもELLEshopにも取扱があったのに殆ど目を引かなったmizuiroindを今季はモトーラさんに着せていて、はじめてホウホウと認知した。そのような『パッとする』バランス感って大切。元の素材がユルめの私はもーちょいコンサバで締めないと駄目。てかZUCCA、UN3Dに寄ってきてない?もっとホッコリしてなかった?え?


ピンと来ない私の表情を見るなり、力ちゃん似の刈り上げショートが似合う店員さんが黒のチェスターを持ってきてくれた。ビッグシルエットはなぁ……苦手なんだよ。と思いながら着ると、マァ綺麗だった。例年のものと違い、今年のものは襟幅が狭い。アームホールも細い。もちろん袖は折り返しができる。肩周りのみゆとりが有り、ドロップになっているので中の服が面白みに欠く時は背抜きにもできる。後ろ身頃はセンターシームが入っているので着膨れ感が出ない。何より裾の収まりのタイトさが他にない美しさだ。黒のコートは無骨な印象になるので敬遠していたが、リバーの柔らかな素材感と腰から下の先細りになるシルエットが重さや無駄な存在感を打ち消してくれていた。


ビッグチェスターって何。私が着ると後ろ姿はまるでノートルダムの鐘つき男。あんまり良い例え方ではない。チェスター着るならコンサバブランドでジャストサイズを探す。と思いながら数年。コンサバブランドで試着しては、うわこれ私が着るとただの地味な人。これにお金をかけるのか。と思いながら数年。当時夫に意見を求めたが「そもそもね、ロングチェスターって難しいアウターだと思うよ。街中で着てる女の子も男も多いけど、身長とか骨格とかにかなり左右されるから、俺的に着こなせてる人あんま見かけない」「陶子さん、ホラ、骨格がテテンとしてるから」とのコメントだった。夫はわりと寛容だし言葉遣いもきれいなタイプではあるが服装に関してはズバリと辛め。大学生の頃某誌の読モをしていた彼は未だに展示会への招待で服を買う。未だに学生時代に買ったコートを着こなしている。ミーハーで芯のない私には真似出来ない所業。凄いなと思っている。

チェスターコートは買わないと思っていたが思わぬ所から見つかった。適度に遊べるチェスター。ネットのモデルやトルソー画像では無感想だったので大穴だった。アウターは顔立ちとの相性が大きい。やっぱり服は試着しないとダメだなと痛感した。今までENFOLDのコートは良いねと言って貰えてきたから、今年も褒めてもらいたい。綺麗だねと言われたい。


この数年、異常気象で東京は暖冬だったそうだ。初めての本当の冬が来る。備えあれば憂い無し。寒くても笑うために色んな準備をする。