青色信号

雑念

トリアージ

平日、京都に飛んだ。京都は中国からの観光客が沢山いてどこへ行っても人の波。大きな声が飛び交っている。今はオススメしない。結構むかし叔母が言っていた。北京語は中学生の時必修科目だった。私の学校は国際社会に羽ばたく人材の育成を掲げていた。中国の経済成長を見込んでいた時代でありインドの株が流行っていた時代。まわりは医者の子たちばかりだったからその経験が役立っている子はひとりも知らない。日常会話が成り立つ程度叩き込まれて、毎年中国の学校の子たちとの交流会が開かれていた。観光客の人たちが何て言っているか分かったら余計嫌だな。そう思って京都を避けていたくせに、単語のひとつも覚えていない。タイプの子が1人も居なかったのと、自分の名前の発音が難しかったことだけ覚えている。


エスカレーターの右に乗る。出口を出るとMKタクシーのハートマークが光っていた。ふと見上げるとジャンカラの看板。関西の風景。BANZAI。紅葉シーズンにも関わらず、どの観光地でカメラを構えても他人が映り込まなかった。嵐山の竹林は想像より広かった。風がサワサワそよぐのを感じる余裕があった。そんなに冷たくはなかった。久しぶりに夫と手を繋いで歩いた。宙に浮いているみたいだった。ふだん観光地で雰囲気に浸ることなんてできやしない。そんなにロマンのない人間じゃない。人は刺激物だから。人が大勢いると雑念がわく。それが無いのが心地良くて仕方なかった。夜は東寺の夜間参拝へ行った。昼間よりも木の凹凸がくっきりと強調されて五重塔の装飾がより繊細に感じた。緑や黄色や赤の紅葉がわさわさと重なり合い、光が灯されてかがやく光景は贅沢なものだった。この景色が人生で2度と無いだろうと思うと子供のワガママのように悲しい気持ちになった。夫が楽しそうにしていて、それを見ては「幸せ」と連呼した。


みなさん、ここでノンビリしているのは元医療従事者です。アーハン、いちぬけしました。ごめんなさいね。京都は感染拡大していないそうですね。上品だからでしょうか。おうどんのつゆが醤油色じゃないですもんね。アンバーですものね。ウーフン、わかります。などと酷いことを思った。


若い娘の頃、患者さんが笑ってくれれば心から幸せだった。嘘は無い。けど、身を粉にして働いて自分が笑えなくなったら終わりだ。

他人は賢い生き物だから、相手が病人であろうと作り笑顔はあっさりとばれる。そこに気づくことも患者さんのためだ。1週間前、友達の友達がひとり、ダメになったと聞いた。


仕事のことになると褒められる。夢とか希望とか愛とか勇気に溢れている輝かしい若者に見えるらしいが私の中身はきらきら光ってなんかいない。私がヘルスケア関係で起業した本当の理由は金平糖くらい鈍い透明度で、とげとげでジャリジャリ且つちっぽけなヤツだ。自分は好き勝手にやっていないと笑って生きられない根っからのワガママで、ただ人に評価される方面への嗅覚が鋭かっただけだ。

ただのセルフケア。SDGs自分。日本は素晴らしくて、皆保険制だ。医療福祉制度は医療保険介護保険による。安定や世のためや天使というニンジンをぶら下げられて身を削られる仲間たちのために動いただけ。

自分が自分として生きるために必要なのは仕事で犠牲になることではない。そんなのお金があるから言えるのだろうと嫌味を飛ばされるが、果たしてそうなのだろうか。若い女の子だから文学とか哲学とかに弱いみたいな偏見を持たれるけど、私は生物学のほうがうんと詳しいのでそもそ活字の学問をよく知らない。若きウェルテルとか誰。ヨシハル?「今どき別に米から栄養とる必要なんて無いんですよ」よろしいやん。「料理はがんばらなくてええんです」SDGs土井。

大きいことはしなくて良い。大きいことが立派で価値がある訳では無い。ただ自分で選択をして行動をしたかった。それが私にとって私を生きているということになるから。友達のその友達の誇りのためにもなるから。


東京に戻る。電車の広告には、読むだけで毎日おしゃれになる!と書いてあった。

ゆるい線の女の子のイラストで

・白Tシャツを着ると全部が今っぽくなり、そこにベージュのコンバースを履くとセクシーな雰囲気になる

・黒スキニーにショートブーツを合わせるとモードになる

・ボーダートップスにロングスカートを合わせてロングコートを羽織ると特別感が出る

と書かれていた。


人によると思った。

全ての合わせ方が3年前っぽいのはなぜだろう。

不思議とこんな広告は関西には無さそうだと思った。偏見だけど。


人がいると雑念が湧く。誰もいない所で遊びたい。

年末と正月は義父と夫と私の親戚の方の叔父でゴルフに行くそうなので、1人で過ごすことになる。マンダリンを予約した。人が多そうだ。東京は慣れない。たぶんキャンセルするだろう。美味しいお茶を飲みに行きたい。できれば中国茶