青色信号

雑念

紅茶が好きな女たち

私のデスクは通路側だ。換気のため出入り口は常に開放されており、もやりと張り付く冷たい空気がある。すきま風ほど鋭利では無いものの、私のMPを消費させる。削がれるマジカルポインツ。 というか機嫌。ちなみにHPは元から無いに等しい。上京する時に母が荷物に入れてくれたバーバリーのストールを思い出す。巻くには長さが不格好になる用途不明の布。きみ、本当はブランケットだったのか。ベージュのヘリンボーン柄が大人しくて職場に丁度よい。これでMPを温存できるぞと持ち込んだが、3連休になった。完全に忘れていた。


連休といえどいくつかの草鞋を履いているので忙しく終わった。連休明けに課長と面談らしい。入って数ヶ月だから特に話すことは無いなぁと思っていたら、来年度の雇用継続についての意思を聞かれるようだ。人事はワヤワヤするタイミングだよなぁー。どうりで最近係長からのmoremoreモノノベが熱烈だった。資料室で二人きりになった時、「どうして元の働き方を選ばなかったの?」と尋ねられた。まともな人は他人のプライバシーには侵襲してこないので、久しぶりに自分のつべこべを話した。こういう時に義実家は便利だ。義実家が専業主婦志向、夫の兄弟の奥さんたちも皆専業主婦で、働いているのは私だけ。ド事実。それを言うと大概の女性管理職は察してくれる。実際は肩身が狭いとは思っていない。先日、義理姉からLINEが来た。義両親が甥っ子の肌着をプレゼントしてくれたそうなのだが、理由が「この間貰った写真で、男の子なのにピンクを着てて可哀想だったから」だそうだ。これが義実家。通常運転である。ますます子供は欲しくない。

港区に出張だったので半休を取って溜池山王へ行った。ツッカベッカライのテーベッカライを購入した。入手困難なはずがcovid-19のお陰であっさり手に入る。ツッカベッカライのクッキーは質が良い。銀座ウエストのふくよかなバターの風味とも、アトリエうかいのジューシーな質感とも違う。バニラ、チョコレードサンド、スパイスの3種というのも優等生感があって好きだ。パッケージの缶のデザインも真っ黒でキリッとしていて格好いい。イケてるメンズからギフトに貰いたいクッキー。義姉への分も購入し、手紙を添えて送った。


女の子の友情には焼き菓子が必須。これは高校時代の友人、メグから教わった。メグは両親の離婚により、高1の秋に関西から転入してきた。

栗色の髪、ピンクの肌、つり目の大きい瞳で人形のようなルックスだった。すぐに学校中に噂が広まり、蛯原さんとトリンドルちゃんを足して2で割ったような美少女と言われていた。わたしは人に道を聞かれやすい穏和なビジュアルなため、真っ先に話しかけられた。

私の学校は男子生徒が8割を占める理系に強い学校だった。メグの通っていた赤文字系読モの在籍する華やかなミッションスクールとは全く異なる環境だ。馴染めないメグと頭がド文系のため落ちこぼれていた私はすぐに2人でつるむようになった。

メグから聞く地元の話は新鮮だった。友達の家に行くときは必ず美味しい焼き菓子を持参するのがルール。球技大会、バザー、ママ達の温度感。すべてがここに無い、別世界の話だった。メグとフレーバーティーを淹れてお菓子を食べる時間はどこか違う世界にいるような気持ちになった。

それまではお菓子にも紅茶にもさして興味が無かったのだが、それ以来楽しみが増えた。元気にしているだろうか。メグの連絡先を知らない。誰も知らない。彼女は家族のことで元気が無くなってしまった。それ以来だ。どんな大人になっているんだろう。会いたい。

彼女に教わった色々のお陰で関西出身の義理姉とは楽しくやっている。義理姉とメグはどこかが似ている。肌がピンクでつり目で明るくて友達が多い。紅茶が好き。ああ、色んなことを話したいのに。日が短くなってセロトニンが不足している。地元に帰りたいとは思わないけど、なんとなく寂しい。