青色信号

雑念

Over the sun

女に生まれた時点で苦しい。自分のやりたかった研究、そういった場はホモソ。それを選ぶと個人のブブンを犠牲にせねばならない。一度の人生をそこに使いたくない。エゴと合理主義がぴったり重なり、21歳の私は小さく生きる選択をした。イヨッアッパレである。

日頃友人のママ友関係の相談に対し、相容れぬ、吐き気がする。と思っていたため、なかなかポジティブにはなれていない。むかし職場のサヤコ先輩が自分の膨らんだ腹に対し、コイツさえいなければ……!という言葉を繰り返し吐いていた。もちろん先輩はキャリアを諦め、出産後は退職し別の場で非正規雇用となった。専門性も狭すぎると諸刃の剣だなぁと思っていたが、以前より世の中の解像度が上がった今、経産婦の多くが経験する出来事なのだとわかった。

私は東京に来た時点でキャリアのキの字もないので先輩程のショックではないが、共感する。思えば私は、当時の先輩と同じ歳になる。時は流れている。


サヤコ先輩とは姉妹みたいだと言われていた。確かに共通点が多い。タレ目でまったり喋るのに言語表現自体はきっぱりしている。完全なキャラ被りな上に夫同士の顔立ちもかなり似ていて、私の結婚式ではどよめきが起きた程だ。年数は離れていたし同じチームになったのは一度だけだったが、馬が合うというヤツで会話の機会は自然に多くなった。

とある日、会議室にふたりが残った。窓から差し込む西陽に目を細めながらブラインドを下げてまわった。「サッシの掃除が甘いの、気がしれないよね。陶子なら分かってくれるんだろうけど」「マジですね。どんな居住環境なんだか」「イトウくん2週間に一回しか掃除機かけないらしいよ。これがまた、あっけらかんと本人談なんだよぉ」「あー、それまたイトウさんらしい。なんてゆーか、芸術肌ですもんね」くだらない愚痴を言い、笑っていた。サヤコ先輩は部署では1番偏差値の高い大学の出身だった。もちろん学歴で決められるものではない、ないと強調したいのだが、頭の回転が半回転速い印象を受けるくらい優秀だった。搭載しているコアのレベルの違いを感じた。その上風通しの良い性格で誰にでも同じ態度なため人望も厚かった。

しかし、先輩の妊娠と同じタイミングで同期の男性のほうが重要な役に選ばれた。私はどちらとも同じチームになったことがあるが、正直、能力面では疑問が残る人選だった。男性で体調で穴を空けづらいから、権力のある人への胡麻すりが上手いからという理由以外思い浮かばなかった。もちろん、それも大事な能力なのだけど。

ブラインドの紐を引き込むサヤコ先輩の大きな瞳に夕日がぷるぷると滲んでいた。先輩はアラサーになってから目の乾燥が酷くなった、西陽の刺激が辛いと言っていた。きっと違う。でも、西陽のせいにしておいた。