青色信号

雑念

タカヒロのダイヤとリエのパール

中学3年のとき、初めて出来たボーイフレンドはタカヒロくんといった。タカヒロくんは2つ年上の高校生だった。中学生というのは1つの年齢差も大きく感じる年頃で、まわりにそんな大人と付き合っているの?本当?と言われて不愉快だった。私は中高一貫校に通っていたから高校生と会話することに免疫力やハードルなんて必要なかったし、当時は気の毒なほどに顔面も大人びていたから違和感もなかったと思う。顔面に中身を合わせようと成長したのか、スクールバッグにディズニーのぬいぐるみ定期入れやクレアーズのピンをガチャガチャつけている子らの無邪気さをダサいと思っていて、クレージュのチャームを1個だけチャッとつけていた。ペンケースとメモ帳もキャラクターものがしっくりこず、マリクレールにしていた。タカヒロくんと付き合うことになった次の日「みんなからはタカって呼ばれてるからさ、陶子ちゃんだけはヒロって呼んで」と言われた。初めての特別な体験で胸がジワッとした。同時にどこまでも冷静な私の存在を消すことができなくて、セパレートできる文字数の名前って便利で面白いな、と思った。わぁー真似出来ないやつだ、トーコはトーコしかないもんな、と。付き合っていた間に撮ったプリクラは2枚だけだったけれど、どれも彼の身体の上に「ヒロ」と書いてあった。


〈hirotakaのダイヤ〉

2019の夏からヒロタカのダイヤを集めていた。華奢だけどコンサバじゃないデザインがとても好みだ。ピアスの片方は伊勢丹で。もう片方は夕方から下北のライブへ参戦する日、暇つぶしに北青山をうろついていたらドローイングナンバーズのPOPUPで遭遇した。本当は伊勢丹でmiカード決済するのが1番だけど出会いのシチュエーションに負けた。ロマンのほうが大切だった。どちらも他に無いデザインで最高に可愛い。ひとつは矢の形で自分のルーツのモチーフ。アシンメトリーにつけたかったので、もうひとつは三日月っぽいモチーフにした。リングはサイズの在庫のあった丸の内店で買った。ひと粒ダイヤと半弧のモチーフが対になったフォークタイプで、指の真ん中が抜けているため中手骨と基節骨の縦ラインを阻まない。私の紅葉のお手てもすらりと見える。お気に入り。見るたびにどう合わせようかワクワクする。


〈MANORIEのバロックパール〉

パールのピアスは取り憑かれたようにネットをdigったのち、11ミリ以下では冠婚葬祭ぽくパッとしないという判断に行き着いた。そもそもあこやの小さいのは母から貰ったのがある。悲しいことに私の顔立ちはあこやより南洋が似合うのでお洒落としてはあまり使えない。おばあちゃんに貰ったマベのイヤリングも気に入っているけど、ゴールドチェーンのふちどりなのでインパクトが強すぎるのが難点だった。日本のインスタでちょくちょくバロックパールの通販を見かけたが「僕、貝だよ!美味しいよ!」という声が今にも聞こえてきそうな袋パール牡蠣シルエットな物ばかりだった。私にとって牡蠣は天敵だし、(食中毒イニシエーション済)ラフ過ぎるシルエットだと服と合わせた時に西海岸の雰囲気に寄ってしまうので難しい。日焼けする予定も顔面の迫力も無いのに潮風吹かせても……ね。そんなモヤモヤを抱えながらホワイトデーに銀座の東急プラザへ行った。コロナの影響で客はおらず信じられない程閑散としていた。ぷらぷら上の階へ上るとセレクトのジュエリーショップがあり、janukaが置いてあることに静かに感動していた。そこで爆イケな店員さんに声をかけてもらい、国産ジュエリーについて語らっていると、なんとお姉さんはMANORIEパールジュエリーのデザイナーさんだった。ディスティニー、感じた。デザイナーさん直々に色んなピアスをつけて一緒にキャッキャしてもらい、14ミリの迫力あるパールにした。スタッドタイプギリギリの大きさ。色はホワイト。バロック具合はニュアンス程度で、全体のシルエットは円のものにした。片方はピコっと子持ちっぽくなっている部分があって可愛い。もう片方は表面がドレープ状に波打っていてテリが際立つ。この絶妙な好みを通販で探すのは難しかったなと思う。新しい生活様式とやらの弱点を初めて見つけた。


転職してからの1年で生まれて初めて物質としての「宝物」を買ったかもしれない。キャリアを失って、葛藤して、イチから積み上げて、最近になってやっと休むことを覚えた。20代も少しずつ終わりが見えてくる。2度目の思春期の記念品。