青色信号

雑念

コーティング

夏に母親へネイルズインクのトップコートをプレゼントした。先週電話口で本当に45秒で乾いて素晴らしかったと喜んでいた。お気に召したようでよかった。

母親はふわっと浮いている人だ。仕事柄アーティスト気質というのは仕方ない。感性が違うから仕事があるのだろうけど。子供の頃はルイヴィトンの鞄を下げてつるんでいる他の母親たちが羨ましかった。保護者の集まりごとがあった時には「お母さんああいう場ではさぁ、もうちょっと喋ってよ」なんて言っていた。口下手。そう思っていたけど、今となっては単に感覚が違ったんだろうなと思う。家庭の中の生ゴミをみんなで共有しているような輪に入ってくれなくて良かった。全員の口が臭い。自分たちだけでいるとその口臭に気づかないから問題ないんだろうけど。


ストレスコーピングという言葉がある。ストレスへの対処法のことだ。心の健康には多い程良いとされている。有名な精神科の先生が自立とは多くの依存先を作ることだと言っていた。ストレスに強くあることに価値は無い。自分の好きなことが沢山あり、実行できていればそれで良いのだ。シンプルなことだ。

母親はよく寝る前にネイルを塗り替えていた。スッスッと両の爪に色をつける。奇怪な動きだった。母親は両利きだ。普通の人間が簡単にできない左右対称で滑らかすぎるその動きはアニメやマンガの一場面のトリガーモーションのようだった。魔女顔なこともあり、魔術をかけているというか、なんだか儀式めいた光景だった。

ネイルを塗ることは私のコーピング術のひとつになった。一昨日追加で3本買った。2本は母へのクリスマスプレゼント。王道っぽいソフトローズのジャストドロップド。わざとらしくない血色感で色白な母の手に似合いそうだ。もうひとつはハンサムなヌーディブラウンのフレンチオーディナリーコート。自分用のも同じのにした。おそろい。ここ1年くらいブラウンネイルが難しかった。ドライフラワーが嫌い。頑固一徹生花派。なので全身茶色とベージュの、韓国風を3回煮出した紅茶の残骸みたいな女の子になりたくなかった。晩夏初秋をいつまで引き摺るのか分からないテラコッタやココアブラウンの爪にしたくなかった。口が悪い。かといってコンサバなベージュも嫌だった。ベージュとブラウンの間の、キャメルと言うには黄みの無い「街っぽい」ヌーディブラウンを発見した。フレンチオーディナリーコート。仏の定番の上着の色。まんまだ。NAILSINCへの信仰心が昂まる。

TANELINの服によく合う。この2つは女性っぽいラインが出るので、下手にコンサバなネイルにしてしまうと一気にジュエルチェンジズ(エメルなんちゃら)ぽく、要は赤文字ぽくなるから要注意だった。寒い間はフレンチ以下略を定番にしよう。気が向いたらshiroの白い繊維だけ入ったヤツと、NAILHOLICの黄色のパチパチしたラメなんかを使おう。ダラダラしているのに飽きてきたので、好きなものでハートをコーティングする。安上がりで気分も上がる。つるんとした気分になる。最高。