青色信号

雑念

Stay Gold

春はmiumiuのスタイリングをやろう。青いシャツにプリーツのミニ。もちろんポインテッドのパンプス。くびれをしっかり作らないと。そんなことを思っていた矢先、妊娠した。私の脳下垂体は働きが悪い。不妊体質は私の生活にぴったりで気に入っていた。垂れ目、口元のホクロ、厚い唇、胸、褒められることの多い部分に限って、自分では良いと思えなかった。身につける物のソリッド感に注意しないとすぐダサくなる。

セックスアピールが強い外見は生活上迷惑が多く、不妊体質や性欲の薄さとセットだからこそ私の中での均衡を保っていた。

『決め込んでいる訳ではないDINKS』という金魚掬いの最中の皮のような立場だった。2月中にミレーナを入れようと思っていたが近所の婦人科の評判がすこぶる悪く、そもそも欲求自体少ない者同士だしとボヤボヤしていたらいとも簡単に破れた。

埋められる余白を埋めなかったのだ。自己責任社会における本当の自己責任。私もとうとうマスの仲間入りである。いや、この時代のこの世代で結婚して子供を持つなんて最早マスではない気がする。

多忙で過ぎた誕生日。一向に待ち人の気配が無いまま冬が終わろうとしている。ねぇ、フィービー 今でもあのテーブル越しにアナタの姿を願わない日はない 心で名前を呼びかけたりする。

ねぇ、冨樫 休載の間に 宇宙兄弟はタイトル回収したし 金カムもクライマックスに向かってるよ ジャイロが見つかるのと ファイロが復帰するのと どちらがはやいかな。

生き物である以上絶対・不変というものは存在しない。幸せはいつも死角狙ってる。だから扁桃体に恐れを溜め込むのだ。

PATOUのトートをマザーズバッグにするのが最適解なのだろうか。アンリのプロダクトだとしてもキャンバス地は渋る。

貴金属にしたい欲求がムクムク膨らむ。金はカムイなのだろうか。教えてサトル。貴金属が欲しくなる時は大体疲れている時だ。この間だって中古のHERMESを優先した。果たして不変への要求自体、美しいものなのだろうか。古臭い考えなんて嫌い、退化なんてごめんなのに腐敗した資本主義の使い捨て文化にウンザリし、さらに古い時代の貴金属の価値に安心する。その癖丁寧な暮らしには思考を奪われている、アイデンティティがないと難癖をつけ、絶対中年になってもホッコリしてたまるかと思っている。通販で買った麻のスモックワンピースにアニエスベーのボタンカーデやUNIQLOの肌触りの悪いカシミヤを羽織りビルケンのサンダルを履く平らにならされたあの感じはやるせない。ムック本っぽいそれらのものを密かに地ならし系と呼んでいる。SDGsをやるなら祖母に倣ってヨーガンレールのバーゲンセールがいい。

全ての物質は恒久じゃない。私が体験した脳内の記憶だけは何とも比べられない。色褪せない。それらは貴金属とは比べられないすてきなもの。ワカッテイテモ変容への恐怖心は折り畳めない。

転機のときは決まって宇多田ヒカルを聴く。母の車の中ではよくヒカルの歌が流れていた。彼女は何を思って聴いていたのだろうか。大好きだから ずっと なんにも心配いらないわ。記憶をなぞる。1月に配信された新アルバムも最高だった。恐れが薄らぐ。私はもちろんヒカルのような才能は無いけれど、変容しながら素敵を更新し続ける人だっているのだ。小市民は元気を貰った。変化の可能性を信じられなくなったとき、脳は終わる。もともと真剣に調べてきたことじゃないか。プリンになったゴソッとした髪、マウンテンパーカー、裾からフリルがはみ出たスウェット、ドライフラワーのピアス、スキニーデニムにアディダス の白のスニーカー、子供乗せ自転車。そうなると思っていたけど、別にそうじゃない。そうなる必要がない。まず私が棄却したいことを棄却しなくては。ステレオタイプによるジャッジ。見た目しか知らない。所詮色んな人と交流した経験が無い。人に興味が無いのだ。それで自分以外が何かなんて分かる筈が無い。本で読んだ恋や愛だけでは分からないことがあるのと同じだ。オレはオレなんだし。音楽はいつもヨコヤマの味方だし。ね。