青色信号

雑念

とっとこ直太朗

思うところが無いと書かないのでここを開くと調子のおかしな人みたいだ。主観の塊はコッテリと重たい。


今区役所にいる。ゲンナリしている。まわりを見渡せば高齢者しかいない。若者は働いているから当たり前なんだけど。じゃあって職場に行ったとしても、50代ばかりなんだけど。

私は世の中を知らなかったと本当に思う。緊急性のある医療の現場は2030代が多い。この世の中はどこでも、そのように若者がワチャワチャしていると思っていた。

考えてみれば夜間帯に働ける体力および都合のつく人とは2030代の子供のいない者か殆ど。条件的凝集。それだけだった。


運転免許証の旧姓併記には住民票が必要だそうだ。その住民票に旧姓併記をするには、戸籍謄本が必要。べつに旧姓なんて載っていなくてもいいじゃない。そうなんだけど。

去年、解約を忘れていた銀行口座を思い出した。その手続きに行ったとき、新姓への氏名変更をしていないから解約できないと言われた。

しかもその口座で引き落としを設定している交通系電子マネー(西日本ローカル)でも氏名変更の手続きと解約手続きをしておかないと、登録情報が永遠に宙ぶらりんになるとのこと。

爪の中に汚れが溜まっているみたいで嫌だからきちんと処理しておきたい。そういう仕組みで、手順を誤った私が悪いのだけど。あゞ不服。


最近の記録しておいたほうが良さそうな出来事。昨年から自分の専門分野の決定機関的なところで働いている。そこを年度末で辞めることにした。

大多数の人にはそんなところを辞めるなんて勿体無い、馬鹿だと言われるだろう。

今後のヨノナカことで、大きな方針を変える動きが起きている。医療従事者の端くれとして、ソッと国に中指を立てて終わることにする。同僚みんなの人柄は大好き。とても居心地が良い。それでもNoと思ったらNoを示さないといけない。その中指が突き刺さるのが例え糠であろうと。アラサーにもなるのにこの狂犬病はいつになったら治るのだろう。


4月から久々の長い休みにワクテカして、欲しかった本、洗い替えの綿の部屋着、スパイスの無い沈む系の香水を買った。休む気満点だったのに、2週間後に別の機関からのオファーがいつくか来た。1つは今より条件が良い。収入は上がるのに働く時間は週の半分以下。いっちょ天孫降臨してやろうかと思う。始祖る。みんなが良い医療を受けられるように場を耕す。もしかしたら長い道かもしれないし、途中で予算が降りなくなるかもしれない。甲斐性の無い私は子供を産むことよりも興味がある。自分はメランコリーだからパキパキしたキャリアの人なんて絶対無理だと思っていたのに。図らずもそんな流れになりそうだ。水瓶座が主役で大抜擢される年とはよく言ったものだ。


あまりにも待ち時間が長いので区役所の硬い椅子で好きな作家の本を広げた。ひとつひとつの言葉に大きく頷きながら進む。本を読むことは大事だ。人間を因数分解して飯を食べている私は、ときに数字だけで考える癖がある。だけど、自分自身の優先順位が高すぎると狭い価値観に閉じ込められてしまう。奇想天外に出逢い損ねてしまう。人の厄介さを愛おしく思うとき、人間してるなぁと思う。


自分自身の優先順位を強制的に下げるメジャーな方法は子供を産み育てることだ。母乳だって血液から作られる。価値転換のビッグバン。そりゃワンオペの幼な子の母親はインスタに愚痴るよなと思う。優しさとか思いやりのメカニズム以前に根本の構造的な部分が悪い。皆が子供を産むヨノナカになるのは難しいと感じる。嗜好品のようにセックスしても、子供は嗜好品ではない。この思考を独善的で幼かったと振り返る日が来たりするのだろうか。


新宿伊勢丹本店が切れると機嫌が悪くなるので補給しに行った。唯一可愛いと思ったシャツ。7万。私は肩幅が広い。痩せても背中がデカイ。おまけに乳もデカイ。セットインでアームが細いのが理想。こんなに良いシャツにはもう出会えない気がした。しかし布に7万を使う景気の良さは無い。みみっちくダイヤのルースを買った方が機嫌が良くなりそうだ。


職場の同じフロアで唯一の20代に声をかけた。こんな所で働いているのに、純朴そうな、体育会系の雰囲気の子だ。喋ってみないとワカラナイ。中身が気になる。LINEを聞きだしたので今度こっそりお茶に行く。

みずがめ座

出品していた鞄が売れた。BIOTOPで買ったものだった。ちょうどその日に行く予定だったから笑ってしまった。白金台駅の無機質な感じが好き。コンビニや売店が無くて、地下の細長い穴の中を乾いた風が吹き抜ける。他の濁った駅とは違う。相変わらず乗り降りする人が少なかった。医研の前を通り過ぎたところで、元同僚がLINEのお友達に入っていることを思い出した。早急に整理しよう。通りにはセント・ジェームスショコラティエ・エリカ、可愛く丸い点で区切られた名のお店が並ぶ。ラ・ボエムに入った。このお店の中世ヨーロッパを模した建物が好き。階段、チェッカー模様の床、シャンデリア。寒い時は薄暗くて賑やかなお店についつい引き寄せられてしまう。オリジナルのレモンチェッロが美味しい。飲んだら身体がキッと熱くなった。

BIOTOPPATOUのシャツと再び目があった。もっと彫りが深い顔立ちか、骨太でないと似合わなそうだ。シャルロットシェネのピアスがとても可愛かった。しかしこの値段だったらもう少し頑張ってナチュラルなダイヤを買いたいと思えてきて、結局脱線して観葉植物を買った。しゃきんと伸びたノンリーフ。モードな佇まいで良い。無駄な幅を取らないし、ホッコリ系にも南国風にもならない。家の他の観葉たちの邪魔をしない。オーガスタは好きだけど広い部屋に置かないとトロピカルさが過剰になるから難しいと思っていた。ノンリーフであれ、暖かくなると極楽鳥の花が咲くらしい。肥料の匙加減に気をつけて育てよう。他にはインポートの壁掛けの花瓶を3つ買った。石ころに穴が空いたようなカタチ。1つは素地。残りの2つはネイビーの釉薬がグラデーションになっている。新年度から仕事をセーブするから、もっと家の中をすてきにする。お気に入りの観葉植物のお店を森星さんが紹介してしまってちょぴっと落ち込んでいたから嬉しかった。

白金散歩のあとは好きなジュエリーデザイナーさんのアトリエを予約しようと思っていたけど、気が向かなくて辞めた。その代わりに緑色のヴィンテージガラスのイヤリングを買った。直径3cmくらいのつるんとした大きなカボション。大袈裟なサイズ感が可愛い。ウネウネさせたヘアに合わせる予定。


「求めよ、さらば与えられん」マスムラさんは言った。そしてうふふと笑った。「本当は会社が無くなるって聞いたとき、ショックだったの。あなたにまた会いたいって、妹と話していたの。願いが通じたのね」

マスムラさんは車椅子で生活している。家の中にエレベーターこそあるものの、一歩外へ出るとまわりは悪路なため1人で外出することができない。彼女は新しく買った黒のバーキンをベッドサイドに置いていた。金具がガンメタリックで格好良い。無駄だと言う人もいるらしい。しっとりと肉厚でなめらかな皮革が美しかった。私はバーキンの側面の革が柔らかいヒダを打つのがとても好きだ。価値なんて自分の中だけで良い。大勢の人がなんと言おうと。

『求めよ、さらば与えられん』富裕層向けの仕事でよく耳にする。信仰とは無関係に。私が松濤生まれだったら何を求めただろう。変態に金を持たせたら危なそうだ。私は庶民に生まれて良かった。

夫がフィービー時代のセリーヌのピアスを買ってくれた。アクセサリーもフィービーがデザインしていたかは知らない。あの時代のやつ。ノットデザインよりコンサバしていない、重なり合う線が知恵の輪ような、遊具のような。コンテンポラリーなシルエットが可愛い。どれだけ眺めていても可愛くて仕方がない。発売当時欲しかったけれど買えなくて、ずっと中古を探していた代物。何年も探しているアイテムが多すぎて笑う。つくづく趣味が変わらない。フリマアプリなんかで系統が変わったので売ります。とよく目にする。それを真に受けると柔軟で羨ましいと思う。注入されたものを養分として育った。三つ子のプチバトー百まで。ミヤケは百まで踊り忘れず。ヨーガンレールのバーゲンセール。

探していたピアスの発売当時は研修や勉強にお金を注ぎ込んでいたため、資金を捻出できなかった。別にそのことを夫に話ていないのに寄ってきた。『求めよ』というヤツか。因果関係?星の廻り?否定したい。カルトにハマる人はIQが低いという論文を読んだ。それを鵜呑み済なのに。

スピ信を散々馬鹿にしつつ、自分がみずがめ座なことは好きだ。変人博愛芸術家。12年に一度のみずがめ座イヤーだの言われているが、実はあと200年くらいはみずがめ座の時代らしい。結構気分が良い。最近生きるのがダルいと感じることがちょくちょくあるので今年はご機嫌直しにタロットでも習おうかな。

コーティング

夏に母親へネイルズインクのトップコートをプレゼントした。先週電話口で本当に45秒で乾いて素晴らしかったと喜んでいた。お気に召したようでよかった。

母親はふわっと浮いている人だ。仕事柄アーティスト気質というのは仕方ない。感性が違うから仕事があるのだろうけど。子供の頃はルイヴィトンの鞄を下げてつるんでいる他の母親たちが羨ましかった。保護者の集まりごとがあった時には「お母さんああいう場ではさぁ、もうちょっと喋ってよ」なんて言っていた。口下手。そう思っていたけど、今となっては単に感覚が違ったんだろうなと思う。家庭の中の生ゴミをみんなで共有しているような輪に入ってくれなくて良かった。全員の口が臭い。自分たちだけでいるとその口臭に気づかないから問題ないんだろうけど。


ストレスコーピングという言葉がある。ストレスへの対処法のことだ。心の健康には多い程良いとされている。有名な精神科の先生が自立とは多くの依存先を作ることだと言っていた。ストレスに強くあることに価値は無い。自分の好きなことが沢山あり、実行できていればそれで良いのだ。シンプルなことだ。

母親はよく寝る前にネイルを塗り替えていた。スッスッと両の爪に色をつける。奇怪な動きだった。母親は両利きだ。普通の人間が簡単にできない左右対称で滑らかすぎるその動きはアニメやマンガの一場面のトリガーモーションのようだった。魔女顔なこともあり、魔術をかけているというか、なんだか儀式めいた光景だった。

ネイルを塗ることは私のコーピング術のひとつになった。一昨日追加で3本買った。2本は母へのクリスマスプレゼント。王道っぽいソフトローズのジャストドロップド。わざとらしくない血色感で色白な母の手に似合いそうだ。もうひとつはハンサムなヌーディブラウンのフレンチオーディナリーコート。自分用のも同じのにした。おそろい。ここ1年くらいブラウンネイルが難しかった。ドライフラワーが嫌い。頑固一徹生花派。なので全身茶色とベージュの、韓国風を3回煮出した紅茶の残骸みたいな女の子になりたくなかった。晩夏初秋をいつまで引き摺るのか分からないテラコッタやココアブラウンの爪にしたくなかった。口が悪い。かといってコンサバなベージュも嫌だった。ベージュとブラウンの間の、キャメルと言うには黄みの無い「街っぽい」ヌーディブラウンを発見した。フレンチオーディナリーコート。仏の定番の上着の色。まんまだ。NAILSINCへの信仰心が昂まる。

TANELINの服によく合う。この2つは女性っぽいラインが出るので、下手にコンサバなネイルにしてしまうと一気にジュエルチェンジズ(エメルなんちゃら)ぽく、要は赤文字ぽくなるから要注意だった。寒い間はフレンチ以下略を定番にしよう。気が向いたらshiroの白い繊維だけ入ったヤツと、NAILHOLICの黄色のパチパチしたラメなんかを使おう。ダラダラしているのに飽きてきたので、好きなものでハートをコーティングする。安上がりで気分も上がる。つるんとした気分になる。最高。

トリアージ

平日、京都に飛んだ。京都は中国からの観光客が沢山いてどこへ行っても人の波。大きな声が飛び交っている。今はオススメしない。結構むかし叔母が言っていた。北京語は中学生の時必修科目だった。私の学校は国際社会に羽ばたく人材の育成を掲げていた。中国の経済成長を見込んでいた時代でありインドの株が流行っていた時代。まわりは医者の子たちばかりだったからその経験が役立っている子はひとりも知らない。日常会話が成り立つ程度叩き込まれて、毎年中国の学校の子たちとの交流会が開かれていた。観光客の人たちが何て言っているか分かったら余計嫌だな。そう思って京都を避けていたくせに、単語のひとつも覚えていない。タイプの子が1人も居なかったのと、自分の名前の発音が難しかったことだけ覚えている。


エスカレーターの右に乗る。出口を出るとMKタクシーのハートマークが光っていた。ふと見上げるとジャンカラの看板。関西の風景。BANZAI。紅葉シーズンにも関わらず、どの観光地でカメラを構えても他人が映り込まなかった。嵐山の竹林は想像より広かった。風がサワサワそよぐのを感じる余裕があった。そんなに冷たくはなかった。久しぶりに夫と手を繋いで歩いた。宙に浮いているみたいだった。ふだん観光地で雰囲気に浸ることなんてできやしない。そんなにロマンのない人間じゃない。人は刺激物だから。人が大勢いると雑念がわく。それが無いのが心地良くて仕方なかった。夜は東寺の夜間参拝へ行った。昼間よりも木の凹凸がくっきりと強調されて五重塔の装飾がより繊細に感じた。緑や黄色や赤の紅葉がわさわさと重なり合い、光が灯されてかがやく光景は贅沢なものだった。この景色が人生で2度と無いだろうと思うと子供のワガママのように悲しい気持ちになった。夫が楽しそうにしていて、それを見ては「幸せ」と連呼した。


みなさん、ここでノンビリしているのは元医療従事者です。アーハン、いちぬけしました。ごめんなさいね。京都は感染拡大していないそうですね。上品だからでしょうか。おうどんのつゆが醤油色じゃないですもんね。アンバーですものね。ウーフン、わかります。などと酷いことを思った。


若い娘の頃、患者さんが笑ってくれれば心から幸せだった。嘘は無い。けど、身を粉にして働いて自分が笑えなくなったら終わりだ。

他人は賢い生き物だから、相手が病人であろうと作り笑顔はあっさりとばれる。そこに気づくことも患者さんのためだ。1週間前、友達の友達がひとり、ダメになったと聞いた。


仕事のことになると褒められる。夢とか希望とか愛とか勇気に溢れている輝かしい若者に見えるらしいが私の中身はきらきら光ってなんかいない。私がヘルスケア関係で起業した本当の理由は金平糖くらい鈍い透明度で、とげとげでジャリジャリ且つちっぽけなヤツだ。自分は好き勝手にやっていないと笑って生きられない根っからのワガママで、ただ人に評価される方面への嗅覚が鋭かっただけだ。

ただのセルフケア。SDGs自分。日本は素晴らしくて、皆保険制だ。医療福祉制度は医療保険介護保険による。安定や世のためや天使というニンジンをぶら下げられて身を削られる仲間たちのために動いただけ。

自分が自分として生きるために必要なのは仕事で犠牲になることではない。そんなのお金があるから言えるのだろうと嫌味を飛ばされるが、果たしてそうなのだろうか。若い女の子だから文学とか哲学とかに弱いみたいな偏見を持たれるけど、私は生物学のほうがうんと詳しいのでそもそ活字の学問をよく知らない。若きウェルテルとか誰。ヨシハル?「今どき別に米から栄養とる必要なんて無いんですよ」よろしいやん。「料理はがんばらなくてええんです」SDGs土井。

大きいことはしなくて良い。大きいことが立派で価値がある訳では無い。ただ自分で選択をして行動をしたかった。それが私にとって私を生きているということになるから。友達のその友達の誇りのためにもなるから。


東京に戻る。電車の広告には、読むだけで毎日おしゃれになる!と書いてあった。

ゆるい線の女の子のイラストで

・白Tシャツを着ると全部が今っぽくなり、そこにベージュのコンバースを履くとセクシーな雰囲気になる

・黒スキニーにショートブーツを合わせるとモードになる

・ボーダートップスにロングスカートを合わせてロングコートを羽織ると特別感が出る

と書かれていた。


人によると思った。

全ての合わせ方が3年前っぽいのはなぜだろう。

不思議とこんな広告は関西には無さそうだと思った。偏見だけど。


人がいると雑念が湧く。誰もいない所で遊びたい。

年末と正月は義父と夫と私の親戚の方の叔父でゴルフに行くそうなので、1人で過ごすことになる。マンダリンを予約した。人が多そうだ。東京は慣れない。たぶんキャンセルするだろう。美味しいお茶を飲みに行きたい。できれば中国茶

紅茶が好きな女たち

私のデスクは通路側だ。換気のため出入り口は常に開放されており、もやりと張り付く冷たい空気がある。すきま風ほど鋭利では無いものの、私のMPを消費させる。削がれるマジカルポインツ。 というか機嫌。ちなみにHPは元から無いに等しい。上京する時に母が荷物に入れてくれたバーバリーのストールを思い出す。巻くには長さが不格好になる用途不明の布。きみ、本当はブランケットだったのか。ベージュのヘリンボーン柄が大人しくて職場に丁度よい。これでMPを温存できるぞと持ち込んだが、3連休になった。完全に忘れていた。


連休といえどいくつかの草鞋を履いているので忙しく終わった。連休明けに課長と面談らしい。入って数ヶ月だから特に話すことは無いなぁと思っていたら、来年度の雇用継続についての意思を聞かれるようだ。人事はワヤワヤするタイミングだよなぁー。どうりで最近係長からのmoremoreモノノベが熱烈だった。資料室で二人きりになった時、「どうして元の働き方を選ばなかったの?」と尋ねられた。まともな人は他人のプライバシーには侵襲してこないので、久しぶりに自分のつべこべを話した。こういう時に義実家は便利だ。義実家が専業主婦志向、夫の兄弟の奥さんたちも皆専業主婦で、働いているのは私だけ。ド事実。それを言うと大概の女性管理職は察してくれる。実際は肩身が狭いとは思っていない。先日、義理姉からLINEが来た。義両親が甥っ子の肌着をプレゼントしてくれたそうなのだが、理由が「この間貰った写真で、男の子なのにピンクを着てて可哀想だったから」だそうだ。これが義実家。通常運転である。ますます子供は欲しくない。

港区に出張だったので半休を取って溜池山王へ行った。ツッカベッカライのテーベッカライを購入した。入手困難なはずがcovid-19のお陰であっさり手に入る。ツッカベッカライのクッキーは質が良い。銀座ウエストのふくよかなバターの風味とも、アトリエうかいのジューシーな質感とも違う。バニラ、チョコレードサンド、スパイスの3種というのも優等生感があって好きだ。パッケージの缶のデザインも真っ黒でキリッとしていて格好いい。イケてるメンズからギフトに貰いたいクッキー。義姉への分も購入し、手紙を添えて送った。


女の子の友情には焼き菓子が必須。これは高校時代の友人、メグから教わった。メグは両親の離婚により、高1の秋に関西から転入してきた。

栗色の髪、ピンクの肌、つり目の大きい瞳で人形のようなルックスだった。すぐに学校中に噂が広まり、蛯原さんとトリンドルちゃんを足して2で割ったような美少女と言われていた。わたしは人に道を聞かれやすい穏和なビジュアルなため、真っ先に話しかけられた。

私の学校は男子生徒が8割を占める理系に強い学校だった。メグの通っていた赤文字系読モの在籍する華やかなミッションスクールとは全く異なる環境だ。馴染めないメグと頭がド文系のため落ちこぼれていた私はすぐに2人でつるむようになった。

メグから聞く地元の話は新鮮だった。友達の家に行くときは必ず美味しい焼き菓子を持参するのがルール。球技大会、バザー、ママ達の温度感。すべてがここに無い、別世界の話だった。メグとフレーバーティーを淹れてお菓子を食べる時間はどこか違う世界にいるような気持ちになった。

それまではお菓子にも紅茶にもさして興味が無かったのだが、それ以来楽しみが増えた。元気にしているだろうか。メグの連絡先を知らない。誰も知らない。彼女は家族のことで元気が無くなってしまった。それ以来だ。どんな大人になっているんだろう。会いたい。

彼女に教わった色々のお陰で関西出身の義理姉とは楽しくやっている。義理姉とメグはどこかが似ている。肌がピンクでつり目で明るくて友達が多い。紅茶が好き。ああ、色んなことを話したいのに。日が短くなってセロトニンが不足している。地元に帰りたいとは思わないけど、なんとなく寂しい。

babble

かわいいあの子。講義はリモート。週に一度美術関係の授業だけはアクティブラーニング。以前より通うのが楽しみになったそうだ。


健全な子だと思う。東京生まれ東京育ち。ホワイトカラー第二世代。パパは商社の管理職。ママは元CA。今は専業主婦。しばしば夫婦でビアンキにまたがりゴルフスクールに通っている。なぜ知っているかというと、ゴルフスクールを主催している百貨店への道程に我が家があるからだ。3つ年上の姉とは趣味も性格も違うけれど2人でディズニーへ行く程度に仲が良い。色々とよく出来ているな、と思う。


父親同士が兄弟なのでイトコにあたる。私には女の子のきょうだいがいない。私が結婚して東京にやって来て、10数年ぶりの再会。前に会った時はモンスターズ・インクBooちゃんよろしく我が家のデカい犬とキャアキャア戯れていたあの子が私の身長を追い抜きすっかり大人になっていた。何より驚いたのは、ほぼ私であったこと。お互い父親似。自分と同じ種類の素材で出来ている同性は初めての存在。どこか鏡を見ているような気持ちになる。怖くて、恥ずかしい。


ユマは私より背が高い。ハンサムな叔父に似て顔のパーツは私より派手だ。私が着物を普段着にすればとからかわれるのに対し、ユマは洋の雰囲気だ。同じ二重の垂れ目なのに。小麦肌に金髪のショートヘア。FUDGEがバイブル。ざっくりとした気取らない格好が似合う。しかし、遊び場によってファッションのテーマを変えてくる。さすが私のスイートベビ。意図せずシミラーになる。2人で歩いていると姉妹ですか?と言われる。とても嬉しい。

ユマは高校までラクロスをやっていた。私の地元はラクロスなんて無かったので、初代プリキュアじゃん。しか感想が無い。大学生になっても一向に日焼けに疎い。留学先がアメリカだったことも影響しているかもしれない。メイクがちょっと下手。温室育ち感があって可愛い。しかしユマの心はなかなかに大人びているというか、落ち着いている。飾らない。年齢のわりに自我同一性が成り立っているから、アルバイトなんかで大人たちに囲まれていて、ミスをしたとしても落ち込まない。自分との付き合い方が上手い。私の思春期はきれいに自己嫌悪と見栄にまみれていた。他人に評される見た目のことと、性のことが頭の中の8割を占めるような生臭いものだった。ハタチくらいになると、バイト先の理不尽をいちいち真正面から受け止めては気に病んだ。

育ち、という表現は好ましくない。愛情、というと種類がありすぎる。意図の差。どんな子になって欲しいと願ってもらえたか、成長を促すための姿勢および態度を取ってもらえてきたかの差。それを感じてしまう。


ユマはよく友達の話をしてくれる。高校時代からの友達の話が多い。進学で東京から離れる子は少数派なので、必然的に繋がったままだ。大学では怖いの半分、かったるいの半分でサークルに入っていないため交友関係が狭い。地方から新しいコミュニティを夢見て出てくる子たちとは違う。ユマは公立出身だ。公立、といっても、やたらと難関大合格者の多い、エンゲル係数高めの地元。いわゆる文京都市。人口は多いが閑静な所。穏やかで朗らかな子なので、色んなことを話してもらえるみたいだ。若い女の子はいつの時代も大変なようだ。最近インフルエンサーの同級生とお茶をしたらしい。ツーショットを見せてもらった。新宿のルミネ2で買っていそうな小花柄のシフォンワンピースにキャスケット。サンローランの大きいロゴの入ったショルダーバッグ。プリクラみたいに可愛い顔だった。これを書いている今、もう顔が思い出せない。それくらい整った顔。ちなみに撮ってあったプリクラの全部にわざわざ『ワセジョ』と書いてあった。その子には、大企業に勤めるパパが最近昇進して、ママがCA落ちだと自己紹介されたそうな。「CA落ち」ー新しい概念だ。落ちた事実すら自慢ワードらしい。なんじゃほら。理解が難しい世界だ。私はつくづく地方育ちで良かったな、と思った。地方のこぢんまりとした私立の中高一貫にはそんな文化は無かった。地元の企業や病院と同じ名前の子が6割以上だったから何も言わなくても各々の家のことは分かった。ママンらは専業主婦が基本だったが、頻回にお茶をすることなどはなく、皆ノンビリとしていた。あと、意味の分からないブランド品の持ち方もしなかった。シャネルのポーチをペンケースにしていたのはSTモに応募すると息巻いていたツタエダさんくらいだ。しかしツタエダさんは近隣の女学園の、後にCanCamモデルを経て女優さんになるあの子の噂を聞いてしまった。OGで現役モデルのRさんより凄いらしい、完全無欠の美少女。裏腹に全く気取らない良い子らしい。本屋でみかけて、そして応募を断念したとのこと。

ちょうどインフルエンサーの同級生ちゃんの、エルメスのブティックに入っていくストーリーが上がっていた。実際にエルメスのアイテムを持っているのは誰も見たことが無いそうだ。「エルメスの小物にお金使うんだ。REDVALLENTINOのワンピとか似合いそうなのに意外」と、言いかける。言わない。良い大人がそんなフンワリした嫌味を吐くだなんて大人げがない。ユマはストーリーを見て、「陶子ちゃぁん……、あのさー、なんて言っていいかワカンナイの、この気持ち」と呟いた。ボーイッシュな見た目に反して喋り方はふにゃふにゃとしている。人を傷つけたことの無い子は凄い。いや、傷つけられていないのか。違う。傷つかないのか。ノン、傷が一瞬で治るのか。分からんが。他には女子アナ志望の子の裏垢などを拝見した。キラキラしていた。「この子客観的にみて女子アナいけると思う?」ユマが真剣な面持ちで尋ねる。「将来オッジェンヌとかになりそうだね」という渾身のギャグが滑る。ユマたち世代に取っては『雑誌の読モ』といのは取り立ててステイタスではない。時代、時代よ。

「写真じゃ伝わらない系の可愛さの子が好きなんだよねえ」ユマが呟いた。「私もそう思うわ」と返した。都会育ちでも色んな子がいるのだな、と知る。島とかを所有しているような子は公立には居ないのだそうだ。同級生たちにはエルメスのストーリーは凄い、羨ましいとチヤホヤされる行為であるらしい。また、東京は色んなレベルの私学があり、賢い所、お金のある所、グレーゾーンの子たちを集める学校に至るまで多種多様とのこと。フレッシュなデータが増えた。珍しい喉越し。


ユマはブラウンのリップが良く似合った。目をキラキラ輝かせて喜んでいた。大人になると初めてのことに喜ぶ現象はなかなかお目にかかれない。きゅんとした。「今度またお化粧教えてほしいな」とLINEが来た。いつまでもかわいい子でいて欲しい。ユマは両親からBigbabyと呼ばれている。念がこもっているな、と思う。

ブレイクタイム

もうすぐいとこの誕生日だ。CHANELの新作リップを買った。昨日発売日だったらしく、欠品している色もあった。みんな情熱がすごいな。モマンとほぼ同じ色が出ていた。Ver.マスクにつかぬ〜Updated〜。似合うだろうなぁ。


マスクに付きづらいリップは持っていなかった。自分用に他の色を購入した。大切なのは彩度だ。艶が無いタイプは白みの加減が合わないと途端に顔がボケッとして冴えなくなる。しかし鮮烈すぎると洋服を選ぶ。72番が良かった。ICONIQという名前が可愛い。今手持ちにない赤々としたリップ。夫は嫌いらしいがめちゃくちゃ似合う。シンプルな服のとき用。しばらくブラウン一辺倒だったので緊張している。似合う色だと目がピカッと光って見える。よい。


ずっとクリニークエスプレッソポップとD&G120番を使っていた。とくに不満は無かった。

エスプレッソポップはクッキリとした澄んだブラウン。名前の通りコーヒー色。深煎り。奥行き感がある。ほのぼのとしたモカブラウンやテラコッタとは全く異なる。真夏につけると妖しい感じになるので気に入っていた。熱帯植物。ブラウンカラーのドラセナやアンスリウム。外気温の暑苦しさに対し、無感情でシーンと佇むアノ雰囲気が出る。冬は冬で空気全体の冷たさと良くマッチした。余計なお色気感が無いため、「ん?化粧?そんなに頑張る気無いです。私が興味あるのは陶磁器ですよ」という感じの悪さを出せる便利アイテム。しかしながらファーとの相性が抜群に良く、唇にたっぷり乗せた途端にヴィランに変身できる代物。これを作っているのがそこはかとなく健やかなイメージのクリニークなのが面白かった。きっと今はほかでも似たようなのがあるだろうな。NARSとかADDICTIONあたりが出していそう。偏見だけど。


D&Gのミスシシリーの120番は、スッケスケの赤みを控えたブラウン。2年前?はまだ伊勢丹新宿本店のポップアップでしか入手できず、外資系のブラウンリップの展開も古っぽいローズブラウンばかりだったので珍品だった。ロバートの秋山氏にそっくりの男性BAさんがすてきにメイクしてくれて、アナタならイケるわとのせられてまんまと買った。何故か好きになるのは男性の美容師さんやBAさんばかりだ。コンセプトに沿って仕立ててくれる。セルヴォーグで若草色やシルバーグレーのアイシャドウ、水色のマスカラを買ったときもそうだった。イエベとかナンセンスなこと言わない。女性のBAさんは流行っているだの、売れているだの、目が大きく見えるだのと言ってくる割合が高い。

120番はケーキの上のシュクレフィレみたいな感じ。意味あんの?ってくらいシアー。そこが最高にロマンチック。透け透けの中にチラチラパールが光ってキュート。これは元の唇の血色が良い若いお嬢さんのためのモノ。実は自分の唇が元から真っピンクなことをちょっぴり不便だと思っている。イケてる感じになりたいけど、テラコッタやオレンジのマットリップが似合わない。どうしても、もとの瞳や肌の輝きが勝ってしまう。それを無視して塗りつぶすのは最高にダサい。NG。そんなお嬢さんがピンクの唇にミーッっと塗ると、つやんとブラウンのフィルターがかかる。元の血色感と合わさると、キャラメリゼしたような唇になる。半トーンだけ大人になる。そういう奴。そういうヤツです。

私は可愛い女子大生じゃないけど、ニュアンスだけつくこのリップは便利だ。グロスの皮膜感とは違い、オイルの薄い艶感。すっぴんの時にこれを塗って眉毛と髪の毛をウエットに仕上げるだけでそれっぽい。抜け感と化粧感のバランスが取りやすい。どんな服にでも合う。ド直球な甘ったるいバニラの香りもまた良い。唇の色がピンクなうちにこういうリップを楽しんでおきたい。一見トンチキな品だけど汎用性が高い。同じシリーズでレモンイエローやフューシャのカラーがある。一体いつ使うんだろうというお祭り感。セルヴォーグのイエローグロスが流行る前からD&Gはとっくに踊っていた。


2つとも仕上がりはお気に入りなんだけど、ゆるい液のためマスク生活には全く持って不向き。口元に色があるだけで気分が締まるからまたリップを探さなくては。シュウウエムラヴィランになれそうな色があったから来週見に行こう。ファーを纏う前までに欲しい。


この冬はフンワリした色や質感のアイテムを使う予定なので、合わせるためにベージュも欲しい。しばらく使って良かったら60番を買い足す。透け透けのパーリィベージュで可愛かった。コーデが浮かぶ。例えば、クラシカルなミニワンピ。足元にはカプリコーンモヘアソックスの新作のフワフワバージョンの子。靴はストラップシューズかバレエ。他には、ハイネックのリブニットにレザーのハーフパンツ、ニーハイブーツ。首元にモヘアのマフラーを巻く。来月NARSからもベージュのシリーズが出るようなので待機するか悩む。コーデが完成しない間って落ち着かない。


その昔、大好きなうつわ屋のご主人に「うつわを手に取ってごらんなさい。どういうものを盛り付けるかが浮かんできたら、あなたにとっての良いうつわですよ。そうじゃないものは無理して手に入れなくたって良いよ」と言われたことがある。作家もののうつわは二度と手に入らないから、悩んで買い逃したり、不要なのに買ってしまうことがしばしばあった。見抜かれていた。その日は深煎りのコーヒーがよく似合いそうなカップと、バターやクロテッドクリームを使う分だけ盛ってテーブルに出す用の小付を購入した。どちらもよく食卓にのぼっている。うつわ以外の買い物の時もよく蘇る言葉。最近調子良くコーデが浮かぶから財布の紐がゆるい。